2006年1月27日金曜日

AH2006


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人工心臓

人工心臓は一般的には補助人工心臓と完全人工心臓の二種類に分類される。
補助人工心臓は、心臓の手術等の心不全に対して一時的に用いられるものであり、心機能の回復の後に取り外される。これに対して完全人工心臓は、心臓の全ポンプ機能を代行する人工臓器であり。外科的に心臓を切除した後に埋め込まれる。
補助人工心臓にも全人工心臓にも様々な方式のものがある。
現在汎用されているのは、空気圧駆動型の拍動型補助人工心臓である。図1に臨床応用中の東北大学で開発された補助人工心臓の写真を提示する。
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図1 臨床応用中の東北大学型空気圧駆動式補助人工心臓
この患者さんは心臓の手術の後、体外循環からの離脱が不能で、自分の心臓だけでは循環を維持することができなかった患者さんである。この患者さんの ように補助人工心臓は一般的に人工心臓がなければ生命を救うことができない状態で応用される。現在までに本邦では298例の補助人工心臓の臨床応用が報告 されている。日本では補助人工心臓の臨床応用が普及された後も、なかなか長期の生存例が得られないでいたが、1985年、東北大学医学部附属病院において 本邦初の補助人工心臓臨床応用の成功例が報告され、日本における臨床への普及が加速した歴史が在る。
東北大学からはその後15例の補助人工心臓の臨床応用が報告されたが、東北大学でも日本全体でも、また世界全体を見渡した成績においても、補助人工 心臓をはずして自分の心臓だけで循環を維持できるところまで回復できるのが、補助人工心臓を装着された患者さんの約半数であり、更に完全に回復して病院を 退院し、長期生存に至ることができうるのは更にその半数である。従って全世界的に見ても、また東北大学においても、約75%の患者は長期生存に至ることが できない。そこで、例えば補助人工心臓から離脱できない患者さんのためには、次のステップとして完全埋め込み型の補助人工心臓の開発が求められる。現在臨 床応用されている図1のような空気圧駆動型の補助人工心臓は胸を直径20mmを超える太いカニューレが2本貫通しており、また小型冷蔵庫ほどの駆動装置か ら離れることができず、実質的にはベッドに寝たきりに縛り付けられることになる。また胸壁を貫通するカニューレによって感染症の危険からも脱却できない。 そこで現在世界中の様々な施設において開発されてきているのが完全埋め込み型の補助人工心臓である。
図2に提示したのは 東北大学で開発中の完全埋め込み型の補助人工心臓システムの概念図である。
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図2 完全埋込型補助人工心臓システムの埋込概念図
人工心臓の駆動エネルギーは、大学院工学研究科の松木教授らが開発した経皮エネルギー伝送システムによって体外から電磁誘導によって供給される。埋 め込まれた電磁駆動型補助人工心臓は流体科学研究所の橋本名誉教授が特許を持つ振動流ポンプシステムであり、駆動制御装置は大学院工学研究科の吉澤助教授 が開発中で、人工心臓は大学院医学研究科駆動制御装置は大学院工学研究科の吉澤助教授が開発中で、人工心臓の動物実験に当たっては大学院医学研究科の田林 教授にもご協力を願っている。このように非常に多くの研究室によって開発されているまさしく総合大学ならではのプロジェクトである。もちろん世界各地でこ の他にも多くの埋め込み型の補助人工心臓システムが開発されており、ロータリーポンプ等を応用した無拍動流型の補助人工心臓もある。Heartmate や、Novacor等の米国で開発された完全埋め込み型の拍動型補助人工心臓システムもあるが、一般的には日本人のような体格の小さい東洋人に埋め込むに は若干大きすぎると言う批判は否めない。
完全人工心臓は、文字通り心臓の全機能を代行しなくてはならないので、より要求される条件は厳しいことはもちろんである。全機能を代行するために は、何もシステム全体を埋め込む必要はないと言われており、図3に提示するような体外に設置された両心バイパス型の人工心臓も在る。
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図3 両心バイパス型完全人工心臓の慢性動物実験
この山羊の自然心臓は電気的に停止させているので、全心機能は人工心臓によって維持されている。このシステムによって同一個体での自然心臓循環と人 工心臓循環を比較検討することが可能になるので、病態生理学的に興味深い実験を行うことができる。人工心臓のカオス解析などはこのシステムによって得られ た興味深い実験成果の一つである。またもちろん心臓を切除して埋め込む置換型の完全人工心臓も世界中の多くの施設で開発が進められつつある。
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図4 空気圧駆動型完全置換型全人工心臓と試作システム
図4は東北大学で開発された空気圧駆動型の完全置換型の人工心臓である。PVCペーストで成形され、坑血栓性を向上させるために内面をポリウレタンでコーティングしている。
耐久性を向上させるためにシリコンボール弁を応用したシステムであり、現在は山羊を用いたフィッティングスタディの段階である。
現在アメリカではこのような完全置換型の人工心臓を電磁駆動型にして開発する方向性で研究が進められており、ペンシルバニア大学等で開発が続けられ ているが、FDAの認可が下りる基準が85kg以上の大人が目標とされており、殆どの日本人には大きすぎる開発目標となっている。そのため日本でも現在東 洋人向けの人工心臓を目指して開発が継続しており、東京大学では電磁駆動型の完全埋め込み型のシステムを用いて山羊の31日間の生存に成功している。国立 循環器病センターでも腹腔にモーターを埋め込む独自のシステムを開発しており現在まで10日間の生存に成功している。東北大学でも最近は流体科学研究所の 圓山教授らのペルテェ素子を用いた人工心臓アクチュエータによる開発を進めている。このシステムを応用すると簡便で耐久性の高い安価なシステム構築が可能 となるので、新世代の人工心臓として注目されている。
欧米で開発された人工心臓も元はと言えばベンチャー企業の開発と政府からの援助が基本になっており、東北大学のシステムも地元に立脚したベンチャー育成の立場からの開発研究を行ってく必要があるかもしれない。
更新日時:2006/01/27 20:13:31

2006年1月23日月曜日




波動型人工心臓実用化総合的研究

波動型人工心臓実用化のための総合的研究成果報告会

医薬品機構のバックアップによる波動型人工心臓開発プロジェクトは、研究代表者の井街教授を東京大学から東北大学へ招聘し、新しく発足いたしました。
中間評価を経て、従来の6大学共同研究機構は、東北大チームは井街教授を中心に再編成、東大チームは傘下に早稲田九大チームを保持し、北大と北海道東海大を1チームに再編成し、波動ポンプの実用化を目指した再編成が行われました。
平成17年1月7日~8日、早稲田大学の梅津教授のチェアで、再編成後、最初の医薬品機構波動ポンプ予算の研究成果報告会が行われました。
会の後は、早稲田大学の見学や、懇親会も行われ、来年度への英気を養いました。
今年度の波動ポンプの試作システムの数などが話し合われ、東北大学でも今年度は、波動ポンプの長期生存を目指して実験を進める予定であります。
更新日時:2006/01/23 12:40:48

2006年1月22日日曜日


病態計測制御分野の概要

この研究室では人工心臓の開発を初めとする循環器病学の治療や診断等の研究や、カオス力学をはじめとする非線形数学理論の医学応用、バーチャルリアリティ、超音波医学等の研究を通して臓器単位の加齢疾患に対する臨床研究・基礎研究を介した加齢医学の確立を目指しています。
ClVAD.jpg 特に「電子医学部門」であった時代から伝統的に医工学連携に力を入れて研究を行ってきており、大学院工学研究科を中心に連携している研究室は十指に余り、企業との産学共同研究にも積極的に携わってきました。日本で最初の補助人工心臓の臨床の成功は東北大学で得られました。
また、空気圧駆動型の補助人工心臓は日本で最初に企業化され、保険認可が得られましたが、治験のコントローラは東北大のこの研究室に置き、臨床効果 を証明しました。また超音波診断におけるBモード法(=超音波断層法)は、工学部との密接な連携によって当教室で開発されたものです。臨床用補助人工心 臓、超音波診断装置、IABP駆動装置、超音波顕微鏡、血管造影カテーテル、体外循環システム、携帯超音波装置等、数多くの医療器具が当研究室において開 発、動物実験が行われ、臨床試験から商品化、企業化が進んできています。
病態計測制御分野は、統合後の医学部附属病院に於いては、心臓血管外科の外来・病棟・検査等を担当し、心臓カテーテル検査及び術中超音波検査等を介して心臓大血管手術の成績向上に大きく貢献しています。
発足の当初から、「実学」を目指した循環器病の臨床研究、商品化・企業化まで視点に於いた現場の病院で役立つ研究を旗印に、加齢に伴う心臓血管病を 臓器単位で助けるべく日夜研究が精力的に推進されています。人工心臓の開発の他にも、例えば超音波医学は前教授の田中元直先生以来の伝統ある研究分野で、 心臓超音波断層がこの研究室で生まれ、ドプラ法開発が行われ、最近では超音波顕微鏡の開発研究などが注目されてきています。
当研究室は、昭和53年に開設され、旧抗酸菌病研究所内科部門のME研究室を母胎に「電子医学部門」として発足しました。また医工学による循環器治 療の体系確立のために医学部胸部外科から仁田新一先生を助教授として招聘し、最先端医工学による診断から治療までの研究体制を整えてきました。
東北厚生年金病院・仙台社会保険病院・宮城社会保険病院・宮城県立瀬峰病院・宮城県立ガンセンター・公立深谷病院等の循環器科の関連の病院や、多くの開業されたOBの先生方などを介して循環器系の臨床研究にも従事し、宮城県内の循環器診療にも大きく貢献しています。
このような歴史に則って、ME研究室と、抗酸菌病研究所の電子医学部門、更に現在の病態計測制御分野の同窓生が甲辰会という同窓会組織を作って、現 在は和気藹々と県内の循環器病診療に携わっており、患者さんの紹介等をお互いに行いつつ、互いの病院で強い分野を生かしあいながら、患者さんの診療に大き く貢献しています。残念ながら現在県内に、循環器と腎臓を完璧に兼ね備えたと思われる病院はないとも言えます。透析で有名な病院には心臓外科がなく、優秀 な心臓外科医が居る病院では維持透析はやっていなかったり・・・大学病院には全科そろっていますが、基本的に救急病院でないので救急やインターベンション の症例数が少ない状況です。で、あれば、県内のいくつかの病院同士がタイアップして診療にあたるしかない理屈になります。当研究室では、以前からOBの先 生方を介して幾つかの総合病院の循環器科や開業医の先生方を巻き込んで診療を行ってきました。垣根の低い、ある種の「バーチャル循環器連合医局」のような 融合体とも言えるかもしれません。
肺移植の研究で伝統ある近藤先生の研究室で移植の臨床が脚光を浴びたのは記憶に新しいところですが、心臓移植の臨床の再開に伴って人工心臓の臨床もまた再び脚光を浴びつつあります。
人工心臓は一般的には補助人工心臓と完全人工心臓の二種類に分類されますが、補助人工心臓は、心臓の手術等の心不全に対して一時的に用いられるもの であり、心機能の回復の後に取り外されます。これに対して完全人工心臓は、心臓の全ポンプ機能を代行する人工臓器であり。外科的に心臓を切除した後に埋め 込まれます。我々は完全人工心臓と補助人工心臓、更に人工心筋等の開発を行っていますが、世界全体を見渡した成績においても、補助人工心臓をはずして自分 の心臓だけで循環を維持できるところまで回復できるのが、補助人工心臓を装着された患者さんの約半数であり、更に完全に回復して病院を退院し、長期生存に 至ることができうるのは更にその半数で、約75%の患者は長期生存に至ることができません。
そこで、例えば補助人工心臓から離脱できない患者さんのためには、次のステップとしてQOLに優れた完全埋込型の補助人工心臓の開発が求められ、現在世界中の様々な施設において開発されてきているのがこのシステムです。 HeartMate? や、Novacor等の米国で開発された完全埋め込み型の拍動型補助人工心臓システムもありますが、一般的には日本人のような体格の小さい東洋人に埋め込 むには大きすぎるので、東北大学でも独自の埋込型人工心臓を開発中です。これも医工学連携の一つの形態の一典型と考えています。
更にマイクロナノテクノロジーを駆使した全く新しい「人工心筋」の開発、制御ナノセンサ・マイクロセンサ開発、マイクロ人工心筋、カテーテル、バ ルーンなどの医療器具開発等を行いつつ、マイクロプローブによる微小循環、マイクロニューログラフィ計測、血管内超音波など多彩なナノテク循環器医工学研 究を行っております。
humanEHAM.jpg 超音波診断学の領域でも、超音波顕微鏡開発、血管内超音波、超音波による治療など広く展開しています。
興味ある方は是非一度見学に来てください。
更新日時:2006/01/22 23:08:18
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