東北大加齢医学研究所の山家智之氏
 海外製補助人工心臓の製品化や国産補助人工心臓「EVAHEART」の承認申請など、補助人工心臓の領域は近年大きく進展しているが、全置換型人工心臓の開発は世界的に遅れている。特に、小児用の埋め込み式全置換型人工心臓となると、海外を含めて開発プロジェクト自体がほとんど存在しないという寂しい状況だ。

 その中、小児用全置換型人工心臓の開発に取り組んでいる東北大加齢医学研究所・病態計測制御学教授の山家智之氏は、ヘリカルフロー動圧軸受無拍動ポンプを用いた試作ポンプで十分量の最大流量と効率が得られ、ヤギでのフィッティングスタディーを開始したと、第57回日本心臓病学会(9月18~20日、札幌市)で報告した。

 ヘリカルフローポンプは、血流の入り口と出口をポンプの側面に設置し、回転する羽根車の前後にらせん型流入路を設けた構造になっている。ファンの回転軸が流体(血液)の力で浮上する「動圧軸受方式」によって、永久磁石を埋め込んだ羽根車が浮き上がり、回転による遠心力で血液駆出を得る仕組みだ。

 さらに流入部をらせん状にすることで2つのポンプをコンパクトに組み合わせることができた。無拍動であることも小型化につながるほか、羽根車が浮きあがり周囲に接触しないため、半永久的な機械寿命も期待できる。
開発中の人工心臓のモックアップ・モデル(提供:山家氏)
 山家氏らが左心性能試験用に試作したポンプは、半径3.5cm、縦7.0cmの円柱状で、カフと人工血管を縫着し、最大流量14L/分まで拍出できる基本性能が確認された。左心補助として必要な5.0L/分、100mmHgの出力は、2070rpm、入力電圧6.6V、消費電力5Wで得られた。

 ただ、このタイプの人工心臓では、体内に埋め込んでからの左室・右室のバランス制御と、心房壁への流入口の吸着防止が課題となる。全置換型でかつ無拍動であるため、いったん吸着してしまうと、駆出血液量がゼロになってしまうためだ。

 このため山家氏らは、左心、右心の拍出バランスで吸着を予防するターボ型の吸着防止制御システムと、血圧を一定に保つ人工血圧反射制御システムを開発、これらの点を解決した。ヤギを用いたフィッティングスタディーにより、今後、動圧軸受の耐久性などを検討していくという。

 臓器移植法改正案が成立したとはいえ、わが国で小児心移植件数がすぐに増加するとは考えにくい。それだけに、人工心臓、なかでも小児にも半永久的に使用できる全置換型に対する期待は高い。山家氏は、「小児用の最終的な救命手段の選択肢の1つとして提供できるよう、開発を進めていきたい」としている。