2013年12月19日木曜日

全か無かの法則に従う心室収縮と人工心筋

 全か無かの法則(=悉無律)は、医学部の生理学の授業で習いますが、神経細胞の興奮、あるいは、筋肉細胞の興奮の伝播スタイルを提示する事象です。
 神経でも、筋肉でも、加えられた刺激が、限界値(閾値)より弱い場合は全く反応しないのですが、閾値に達すると、いきなり反応するわけです。その大きさは最大限度であり、それ以上に刺激を強めても、反応は大きくならないので、全部、反応するか(全か?)、一切、反応しないか(無か?)の2種類しかないわけです。つまり、反応にはこの両極端しか存在しない、ということを示した法則で悉無律と、呼ばれるわけです。
 これに対して、心臓では、右心房にある洞房結節で発生した心筋収縮の刺激は、右心房壁の固有心筋細胞を波状に伝わります。このときに心房が収縮し、心臓へ血液を送り込むわけです。この電気刺激は、右心房の下方で心室中隔近くに存在する房室結節(田原結節)に伝わります。日本人がこの結節を発見したんですね・・・・、昔の人は偉かった。
 この田原結節で、刺激の電導が極端に遅くなり、心房と心室の収縮が整うわけです。田原結節を出た刺激伝導系は、ヒス束)に移行して右心室と左心室の間の心室中隔に入ります。ヒス束は心室中隔に下降してまもなく、左脚と右脚に分岐し、左脚はさらに前枝と後枝に分岐します。ヒス束に始まるこれらの線維はプルキンエ線維と呼ばれますが、伝導速度は比較的非常に早く、心室内膜下に至り、心室心筋に刺激を伝導するわけです。
このプルキンエによって、心室全体が協調した収縮をすることができることになります。
 この協調した収縮を再現しようとしているのが、人工心筋プロジェクトです。

2013年12月10日火曜日

バイオサロン



No.13-161
第42回バイオサロン

開催日 2014年01月10日
企画
バイオエンジニアリング部門  
趣旨・内容 【開催日時】
2014年1月10日(金)15:30~17:00

趣 旨
【題目】
人体は機械である-人工臓器の開発と臨床

【講師】
東北大学加齢医学研究所 心臓病電子医学分野 教授 山家智之

【内容】
人工臓器医工学の発展に伴って、致死的であった最も重症な末期的臓器不全の、救命のチャンスが、ますます広がりつつある現在、倫理的な問題も、考察して行 くべき必要性が増大していくかもしれません。現代では、頭の先から足の先まで、すべての臓器に関する人工臓器が開発されつつあり、植込み型補助人工心臓 は、既に企業化の段階に有り、人工肺は、手術中に応用されるものは市販されており、腎不全、肝不全には、透析、血漿交換が行われています。液性因子を分泌 する内分泌器官に関してはホルモンの静注などの投与が行われ、消化器は、中心静脈栄養などで代用されています。脳神経系は最後の暗黒大陸と呼ばれてきまし たが、人工の視覚聴覚など五感の代用臓器が開発され、高次脳神経機能に関するブレインマシンインターフェースコネクションも動物実験が進められています。
いま、人工臓器医工学で必要なのは、何を、研究するべきで、どこまで、開発して良いのかという、倫理的な指標なのかもしれません。
みなさん一緒に考えてみましょう。

【司会】
(独)産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門 西田正浩

【定員】
40名

【申込締切】
2014年1月6日(月)
会場 東北大学流体科学研究所 2号館大講義室
(仙台市青葉区片平2丁目1-1)
参加登録費 2,000円(当日会場にて申し受けます)
※学生員及び一般学生は無料
申込先 【申込方法】
FAXかE-mailにて「No.13-161 第42回バイオサロン参加申込み」と題記し,1)氏名・会員資格,会員番号2)勤務先・所属部課・所在地・電話・FAX・E-mailをご記入の上,下記部門担当者にお申し込み下さい.
問合せ先 【問合せ・申込先】
日本機械学会 バイオエンジニアリング部門(担当職員 橋口,小阪)
電話(03)5360-3500/FAX(03)5360-3509/
E-mail:hashiguchi@jsme.or.jp
申込締切日 2014年01月06日  

人工食道特許


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(書誌+要約+請求の範囲)

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】特許第4486345号(P4486345)
(24)【登録日】平成22年4月2日(2010.4.2)
(45)【発行日】平成22年6月23日(2010.6.23)
(54)【発明の名称】人工食道
(51)【国際特許分類】
   A61F   2/04     (2006.01)
   B65G  54/00     (2006.01)
【FI】
   A61F  2/04         
   B65G 54/00         
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2003-373737(P2003-373737)
(22)【出願日】平成15年10月31日(2003.10.31)
(65)【公開番号】特開2005-104722(P2005-104722A)
(43)【公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【審査請求日】平成18年10月27日(2006.10.27)
(31)【優先権主張番号】特願2003-299347(P2003-299347)
(32)【優先日】平成15年7月22日(2003.7.22)
(33)【優先権主張国】日本国(JP)
(31)【優先権主張番号】特願2003-281289(P2003-281289)
(32)【優先日】平成15年7月28日(2003.7.28)
(33)【優先権主張国】日本国(JP)
(73)【特許権者】
【識別番号】390031521
【氏名又は名称】トキコーポレーション株式会社
【住所又は居所】東京都大田区大森北3丁目43番15号
(73)【特許権者】
【識別番号】503224909
【氏名又は名称】山家 智之
【住所又は居所】宮城県仙台市太白区金剛沢1-4-30
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】山家 智之
【住所又は居所】宮城県仙台市太白区金剛沢一丁目4-30
(72)【発明者】
【氏名】前田 剛
【住所又は居所】東京都大田区本羽田一丁目20-9
【審査官】胡谷 佳津志

2013年12月9日月曜日

情報処理特許成立

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】特許第4936479号(P4936479)
(24)【登録日】平成24年3月2日(2012.3.2)
(45)【発行日】平成24年5月23日(2012.5.23)
(54)【発明の名称】情報処理プログラム、情報処理装置、情報処理システム、および情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   G06F   3/01     (2006.01)
   G06F   3/033    (2006.01)
   A63F  13/00     (2006.01)
【FI】
   G06F  3/01    310 B
   G06F  3/033   425  
   A63F 13/00        A
   A63F 13/00        F
   A63F 13/00        C
【請求項の数】28
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2009-76919(P2009-76919)
(22)【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
(65)【公開番号】特開2010-231399(P2010-231399A)
(43)【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【審査請求日】平成22年6月30日(2010.6.30)
(73)【特許権者】
【識別番号】000233778
【氏名又は名称】任天堂株式会社
【住所又は居所】京都府京都市南区上鳥羽鉾立町11番地1
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【住所又は居所】宮城県仙台市青葉区片平二丁目1番1号
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100151541
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 猛二
(74)【代理人】
【識別番号】100130269
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 盛規
(72)【発明者】
【氏名】古田 律克
【住所又は居所】京都府京都市南区上鳥羽鉾立町11番地1 任天堂株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 誠
【住所又は居所】宮城県仙台市青葉区片平二丁目1番1号 国立大学法人東北大学内
(72)【発明者】
【氏名】山家 智之
【住所又は居所】宮城県仙台市青葉区片平二丁目1番1号 国立大学法人東北大学内
(72)【発明者】
【氏名】杉田 典大
【住所又は居所】宮城県仙台市青葉区片平二丁目1番1号 国立大学法人東北大学内
【審査官】豊田 朝子

2013年12月2日月曜日

屋根瓦

去年の基礎修練で、学会雑誌に投稿した学生さんが、遊びに来て、今年の学生さんに、投稿の仕方を教えています。
これも屋根瓦方式の一環かな?

2013年11月7日木曜日

遠心補助心臓二機による全置換型人工心臓実験

 全置換型人工心臓の開発は、現在、世界中で事実上停滞しており、回転式ポンプで真面目に全置換型人工心臓をつくろうとしているのは、東北大、東大の他、クリーブランドクリニックくらいです。
 これは、EvaHeartなどのような、遠心ポンプ式の植え込み型補助人工心臓が製品化、市販化され、日本では、世界で初めて、国民皆保険制度の下で保険収載されているので、左心不全だけであれば、片心のみの補助人工心臓で、患者が救命できるので、マーケットの理論で言えば、患者数が限られる完全置換型の人工心臓の開発動機が萎縮して行ってしまった点もあります。
 それでも、左心補助も右心補助も不可欠な最重症の心不全患者は存在するので、その救命が急務になっています。
 東北大学では、SunMedical社との共同研究で、EvaHeartを二台埋め込むことで、実質的に完全置換型の埋め込み型人工心臓を実現してしまおうと、実験を重ねています

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24110062
 
  現在の、片心のみの補助人工心臓では救命できない最重症の心不全を持つ患者さんの福音になることが期待されます

2013年10月22日火曜日

研究室訪問

 頭の一女、顔の二女、・・・と、言えば、仙台の男子高校生にとっては憧れの女子校でしたが、研究室訪問で、一女高の生徒さんたち・・・ではなくって、宮城一高の高校生諸君が、うちの研究室に、人工心臓の見学に来てくれました。
 宮城一女も共学化して、現在は「宮城第一高校」になり、理数科の生徒さん八十何人中、いまは男の子が十数人いるそうです。
 時代は変わったなあ・・・

 「やってみせ、やらせてみせて、誉めて上げ、それでなければ、人は育たず・・・」と、いうのは、確か、山本五十六の言葉だったと思いますが
 そういうわけで、初めの1グループだけ、私が案内してみせて、次のグループからは、基礎修練の医学部の3年生に、説明を任せてみました

 ・・・実は、ハラハラしながら、廊下で聞いてたりします
 心配するまでもなく、やがて、かちかち・・・と、うちの駆動装置の試作機の、動く音が、聞こえて・・・ワ〜ッ・・・と、一女の娘さんたちに、どっと、受けている声。

 ほっとしました
 ま〜、汚いおじさんが説明するより、イケメン医学生が説明した方が、たぶん良かったでしょう。
 
 みなさ〜ん・・・東北大、受けてね!
 良い大学ですよ〜




2013年10月18日金曜日

「一応、外科志望っす」
「おっしゃ! やって見る?」
「ハイ!」

思いっきり、肩に力が入っています
同級生が後ろで心配そうに見ています

まだ3年生だから、ちょっと糸結びも怪しいけど
頑張れ未来のブラックジャック!

2013年10月17日木曜日

ううん

朝、実験が始まって若い人に任せて教室にもどって大学院の志願者さんに逢って研究室を案内して話をしていると、博士の論文を持ってこられたので論文見て対応を相談してパワーポイントを直して、予算の書類を書いているとK府大の共同研究の先生方が、研究所の入り口でどのビルかわからなくて迷っていると言うので迎えに行って案内して研究相談して若手に実験室に案内してもらって部屋にもどって書類を書いていると知的財産部の方がいらして相談してお腹すいたけど昼飯を食べてる時間もないよお、と、実験室に行ってみると頑張って美しいデータが取れている! 「やったね!」と、ぽん!と修士の学生さん誉めて基礎修練の学生さんに手術と投薬の話をしてもどってくると共同研究メーカーの方がいらしていて相談を若手の先生に御任せして、部屋で予算の書類の下書きを書いて、秘書さんに判子をもらおうとしているともう勤務時間が終わっていてこれから研究会に向かいます。ううん・・・、まだ何か忘れているような気がするんだが。と、つぶやいてみようと思ったら140字以上あるなあ。

2013年9月5日木曜日


心臓病電子医学分野 MECinIDAC

 お手もとに、i-phoneか、スマートフォンをお持ちでしょうか?
 safariを立ち上げ(なぜか私のi-phoneは、初期設定がsafariになってます)ググってpubmedを探してみましょう。 PubmedのHPが出たら、ultrasoundと、heartとtomographyで検索をしてみてください。たくさんの論文が出てきます。そこ で、右上のlastのボタンで最終ページまで行ってみましょう。一番古い文献=すなわち、世界で最古の、超音波心臓断層法の論文が出てきます。
 世界最古。
 う~ん、考古学みたいですね。
 さて、では、この、地上で最初の超音波心臓断層法の論文は、いったい、どこで書かれた論文なのでしょうか?
 新しいものは、きっと舶来(死語かな?)に、違いない?
 そんなことはありません
 そう、答えは、地球の上の、他のどの国でも、他のどの大学病院でもなく、ここ、この加齢医学研究所で書かれているわけですね。
 実は、他にも、超音波は俺が世界最初だ?とか、CTの原理は俺が先だ?とか、主張している人間はたくさんいます。
 まあ、世の中にはいろんな人がいて、アブない人もたくさんいますし、商売として、新発明を謳『うた』って(騙『かた』って)いるだけの人もいます。
 ですが、いまは、アメリカの国立医学図書館ベースの医学情報は、みなさんのケータイから1分以内で確かめることができるわけです。
 ほんでもって、調べていただければ、私はウソを言っていないことは、世界のどこからでも、  即!わかっていただける時代になったんですね。
 良い時代になったものです。
 心臓病電子医学分野は、この世界最初の心臓断層法を発明した、私の先々代の田中元直初代教授によって、当時の抗酸菌病研究所の第13番目の部門と して設置されました(う~ん、縁起のいい番号ではないか・・・別に裏切るつもりはありません)ので、発足当時から、医学部と工学部が仲良く研究する境界領 域の研究室として発展してきたわけです。超音波、人工心臓をはじめとして、様々な医工学共同研究が産学共同で進められてきました。
 ついでですが、Pubmedで、Cardio Ankle Vascular Index (CAVI)も、検索してみてくださりませ。CAVIは、東北大学病院でも計測できますが、脈波伝播速度の国際標準を目指す動脈硬化の指数で、世界最古の 論文は私どもの教室のものです。
 すみません。・・・自慢みたいですね。
 その通りか?・・・年寄りの自慢話は嫌われる元ですが、この論文は、たまたま私が書きましたが、加齢研とフクダの共同開発でもあり、一時は加齢医学研究所に「臨床医工学」という寄付講座がございました。  CAVI開発当初には、動脈硬化のパラメータを謳っているのに、弾性率がはっきりした、模擬循環回路でのしっかりしたバックアップになる基本データがありませんでした。  そこで、うちの得意としている人工心臓循環で様々な弾性率の導管に実際に流体を流して、現実の動脈硬化指数のデータ比較を行い、かつ、山羊を使った脈波の動物実験で確認をしたわけです。
 臨床に展開した後でも、世界標準とするべく、ロシアのスモレンスク医学アカデミーやチェコのマサリク大学と、CAVIの国際共同研究を展開してきましたので、国際学術協定を、加齢医学研究所との間に締結しています。
 もしかして? ちょっくらお腹が、メタボな皆様。
 いやあ、欧米人のデブさ加減と動脈硬化は、ヒドイもんですよ。
 国際共同研究の中、日本人のメタボなんて、かわいく思えてきました。
 このCAVIでも見るように、病院で、現実に、患者さんに行う検査にせよ手術にせよ、いまは、いきなり人間!と、いうことはありません。
 できれば数値解析、しっかりした理論解析の下、心臓であればモデル循環回路、急性、慢性の動物実験を経て、初めて、倫理委員会の審査を通して臨床 応用になるのが現在の医学研究です。無事に治験、販売が開始された後にも、市販後調査研究があり、それを管理する政策のレギュレーション科学も最近注目さ れています。
 われわれ心臓病電子医学では、この数値理論から、モデル循環、動物実験、臨床、レギュレーションのすべてにわたって研究を行っています。
 ですから全国、世界各国からいろんなプロジェクトが来て、ドイツやテキサスの人工心臓から、臨床に進んだエバハートの動物実験では世界最長生存記 録をマークし、統合医療の脈波診断から、手術ロボット開発まで、いろんな医工学共同研究が産官学共同研究で走っており、頭が悪い当分野の教授には、だれが どう出入りしているのか、だんだん全貌が把握できなくなるほど、いろんな人が錯綜していますが、優秀なスタッフがちゃんと把握してくれていますので大丈夫 です。
 電子医学部門時代からの卒業生や先輩方が、各大学や企業、病院に展開してくださっていますので、大学や企業だけでなく、関連病院の人事交流も合わ せ、臨床研究も盛んです。東日本震災を受けて、被災地の心血管イベントの発生を予防する実学研究も開始されました。離島、へき地の遠隔診療を可能にする電 子診療鞄は、震災の被災地の避難所でも活躍してくれましたし、放射能の風評被害では、生体医工学学会や人工臓器学会などの協力も得ることができました。
ここは研究所です。 新しい研究をすることが使命です。
みなさん、一緒に新しいことやりましょう!

山家智之

2013年9月4日水曜日

TPP ( Trans Pacific Partnership)と人工臓器


  日本人工臓器学会新未来技術開発委員会 山家智之
   山根隆志、阿部裕輔、岡本英治、福永一義、中村真人、石原謙(日医総研)


 まず、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイが、2006年に経済連携協定を発効し、これを発展させて、2010 年 3 月に、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナムを加えた 8 か国で、TPP 交渉が始まったとされ、このような歴史から、TPPに関しては、もっぱら農業分野への懸念事項は報道されてきた歴史は、日医総研のレポートに詳しい。
 これに対して、TPP と医療の関係については、マスコミや論壇などで、まったく触れられていなかったに等しい。国民皆保険を揺るがす懸念が指摘されても、それは「疑念」「誤解」とされてきたと言える。得てして、医師会が、マスコミにおいて利益団体としての扱いを受けるかぎり、世論を構成し得ない弱みは否定できない

 日本医師会では、2013年3月の交渉開始に際してステートメントを発表している。

http://dl.med.or.jp/dl-med/nichikara/tpp/tpp20130315.pdf

そこでは、
 「世界に誇る国民皆保険を守るために、第1に公的な医療給付範囲を将来にわたって維持すること、第2に混合診療を全面解禁しないこと、第3に営利企業(株式会社)を医療機関経営に参入させないこと、の3つが絶対に守られるよう、厳しく求めていきます」と、声明されている。

 しかしながら、現段階では、交渉の内容は一切秘密にされているので、医師会の声明がが満たされるか否かも明らかではないと言える。日医総研からの意見では、アメリカからの要請と言って、日本の利益団体の要請がアメリカ経由で帰ってくる交渉が散見され、TPP交渉、日米交渉と言いながら、実は、日日交渉である側面が大きくなることも不安視されている。
 本来は、まずは、国民にとって、メーカーにとって、社会にとって、含有して日本全体の利益がいかにあるべきか、大枠の議論が必要になりはずである。

 ちなみに条約、とは、文書による国家間の合意であり、国内法的効力を持つと解釈され、現状では条約が法律に優先すると解釈されている。
 また、例えTPPが締結されなくても、米国は、日本に、非関税障壁の撤廃を要求してきており、米国通商代表部では、毎年「外国貿易障壁報告書」を提出している。たとえば、2011年度版では、医療機器に関しては外国平均価格調整ルールの廃止または改正、医薬品に関しては新薬創出加算の恒久化と加算率の上限撤廃、市場拡大再算定ルールの廃止または改正を列挙しており、交渉のテーブルに載るのは避けられないと思われる。
 国民皆保険や、薬価についても議論が多いが、人工臓器学会としては、人工臓器に限って最適化の議論を深めて行くべきであるとも考えられる。

1.人工弁、ペースメーカとTPP
 残念ながら、国産の人工弁とペースメーカは存在しない。すべて輸入なので、日本人の健康寿命は、欧米の医療メーカと輸入業者次第である。と、言う側面があり、東日本大震災の様な極端な局面では生命予後に直結する。よく知られているように、人工弁、ペースメーカとも極端な内外価格差がある。欧米には過当競争も価格競争も大量生産の効果もあり価格が低めの設定になっているので、TPPで問題になるとすれば、日本の高価格が患者や保健医療の問題になり、ある種の非関税障壁を形成しているので、切り下げを求められることはあり得る。
 人工弁、ペースメーカの保険価格切り下げは、中間マージンの医療機器輸入会社の経営は圧迫することはあり得るが、制限のある保険医療の伸びを考えれば福音にもなり得る。

2.透析とTPP
 日本では皆保険であるので、透析は必然的に高額医療の対象になり、月10万以上患者負担はかかりようがない体制になっている。これに対して米国では、私的保険の範囲。また、メディケア、メディケイドの対象外の患者は、透析を受ければ、自動的に破産するほどの医療費になる。TPPで要求されるとしたら、保険診療の範疇から高額な透析費用を外し、私的保険の範囲にすることで、アメリカの(日本の)私的医療保険会社にお金を払わないと、透析が受けられないという形はあり得るが、交渉が秘密裏に進んでいるので不明。ただし、日本の医療保険の制度設計は明らかに破たんしているといえないわけではないので、保険制度全体の経済を守るために、「胃瘻」などと並んで、「透析」が目の敵になる可能性は決してそう低くはない。

3.補助人工心臓とTPP
 日本は世界で唯一、国民皆保険の下で、心臓移植と、埋め込み型補助人工心臓の保険収載が認められている。と、報告がある。
 日本では、国産のシステムとしては、エバハートとデュラハートが、保険収載されたが、現況ではともに、順調に収益が上がっているとは言えないとも報告があり、日本の純国産の人工心臓は苦戦しているのに対し、米国ではスケールメリットを生かして8~10万ドルで植え込み型人工心臓が販売されている。また、埋め込み後の管理料に、日本は月40万ほどの保険収益があるが、アメリカは州によって、メディケア、メディケイドの対応が異なり、まったくフォローがない州もある。米国では、補助人工心臓の本体価格も、病院と会社の交渉で決まり、大量に導入して、さらに大安売りもあり得る体制。
 現状では、日本の人工心臓の方が保険請求総額としては大きくなっている。が、アメリカでは術後フォローが保険の収載範囲かどうか統一されていないので、術後のフォローは電話一本かかってくるだけで、人工心臓が止まったらそこまで。という病院も多い。
 したがって、現状では、患者の命を守るためには、日本の方がベター
 安く済ませるにはアメリカの方がベターになる可能性がある。
 現在、日本では、国産の人工心臓が苦戦している側面があるので、TPPとして交渉されるとすれば、アメリカから安価な人工心臓がダンピングで来て、日本の人工心臓の会社を焼け野原にしてから、ゆっくり値上げという戦略は、当然、あり得る。
 その場合、日本の国産人工心臓は、ゼロになる。国民の安全保障状は問題が大きいとは言える。
 また、逆に、日本の医療費全体を抑制するために、透析と人工心臓をはずすという選択もあり得ないわけではないし、アメリカと日本の私的な医療保険だけに認められるという交渉も、起こり得る選択肢になる。

3。混合診療と人工臓器
 新しい医療機器開発には、混合医療が望ましいという説はある。
 日本医師会では(批判もあるが)混合医療が全面解禁されれば、新しい医療を保険診療する必要がなくなり、保険医療の範囲が次第に縮小し、患者扶南が増えていき、欧米の医療保険に吸収されていくスキームになるので、全面解禁には反対している。

 いまだ、明らかではない側面の方が多いが、TPPは人工臓器や医療だけでなく、全面的な日本の制度設計にかかわるので引き続き情報収集が必要と思われると同時に、人工臓器の理想の医療はいかにあるべきか?に、ついても、サステイナブルな側面からも議論を深める必要がある。
 日本人工臓器学会は、世界最大の人工臓器の学術団体であり、私たちが世界の方針を考えて行く必要があるのかもしれない。



参考;
1。日本医師会

http://dl.med.or.jp/dl-med/nichikara/tpp/tpp20130315.pdf

2。日医総研ワーキングペーパー)
http://www.jmari.med.or.jp/research/dl.php?no=511

2013年6月27日木曜日


Jindrichuv Hradec チェコの田舎町、インドジーフ・フラデッツにあるギネス認定の小型ロボット。

 中欧の国家は、どうやら、どこでもそうらしいんですが、チェコ共和国は、いくつかの文化圏に分離しています。ボヘミアの領分にはブルノの城下町が中心になっています。ボヘミア地区の中心、ブルノからちょっと離れたところにある、小さな小さな田舎町。インドジーフ・フラデデックを訪問する機会を得ました。
 動脈硬化の診断パラメータの一つであるCAVIは、国際医学雑誌では、世界で最初に東北大学から発表されましたが (Biomed Pharmacother. 2004 Oct;58 ; 95-8)、ヨーロッパで最初にCAVIが導入されたのが、チェコの開業医医師会の会長であるベルーカ医師のクリニック。そこで、血管年齢の算出などがよくわからんので、日本で、実際に開発に携わった医師の話を聞きたいと要請があり、訪問の運びとなりました。ちょうどミュンヘンで高血圧学会があった帰りでもあり、ブルノのマサリク大学の友人ドブサク教授のラボを訪ねるついでもあったので、人口三万の小さな田舎町、インドジーフ・フラデクに立ち寄ることになりました。
 先方は、日本から開発のプロフェッサーが来ると言うので、えらく歓待されて、公会堂になっている教会でインドジフフラデクの市長さんにまでお会いする栄を得ることとなり、たいへん恐縮しましたが、分厚い、でも、一冊だけの公式訪問者のサインの記録を見ると、確かに日本人は僕らが最初みたい・・・(どうやら漢字は僕らだけ?)、最初に見る日本人が、こんな僕らなんかでいいのかな?とも、ちょっと思いましたが・・・良く味がわからない(私がわからないだけです・・・^^;)地元のワインで乾杯。公式の行事なんだそうです。
 ベルーカ医師のご案内で、地元のお城の観光に・・・お城の庭では、この町の市民楽団が今晩のコンサートのリハーサルを場内で催していました。はげ頭のおっちゃんたちが、ラフなTシャツ姿で気持ち良さそうにリハーサルしている  ・・・よ~く、場所柄を考えてみると、ここはまさしくモルダウ地方!
 モルダウ川の畔で「モルダウ」などの演奏を聴くと、市民の皆様の郷土愛を感じ、中欧の伝統の厚みが伝わってきました。
 ベルーカ医師が、これだけは見ておけ、と自慢の博物館で見せられたのが、小型の人形がたくさん並んだ壁いっぱいのパノラマでした。
 いや、正直。すごい大きさすごい規模。写真では伝わりませんが・・・
jindris.jpg
 キリスト国には、キリスト生誕のベツレヘムの場面を、ミニチュア人形等で彫像等で作るNativityという文化(キリスト降臨を特に指す固有名詞になっているようで、彫像群の名前にもなっているらしいです)があるそうなのですが、ここにあるのは19世紀に造られたにもかかわらず、世界最大の規模でギネスに登録されたそうで、ベルーカ医師会長は、たいへんうれしそうに自慢しています。
 見れば、キリスト生誕の時代風景を表すたくさんの人形が壁いっぱいに飾ってあり、いくつかの人形は、自動で動いてマーチしたり畑を耕したりしています。ホントに当時の技術だけで動くそうです。
 キリスト誕生を予言した三博士がマリアさんの周りを動きまわっている・・・聴けば100体以上の人形が自動で稼働し、1000体くらいの人形が飾ってあり、ここにあるのは、ごくその一部にすぎないといいます。
 驚いたことに、これをすべて、たった一人で作った19世紀の農夫がいたというのです。
 なんつうことない普通の農家の爺さんで、隠居後、農家を息子に譲って、何やら地下にこもってトンカンやってたチェスキー・クルムロフという名のおじいさんの作なのだそうです。
 ベルーか医師会長さんのお話しでは、おじいさんが亡くなった時、初めておじいさんがなにかやっていた地下室を覗いてみた息子さんが、驚愕したそうです。
 豊かな農家の広い地下室いっぱいに1376体の人形(一説には2000体!!!)
 しかも、それぞれが自動で動いて、キリスト生誕の物語を彩りながら祝っているのです。
 まあ、日本の江戸時代の自動人形もなかなかだと思いますが、規模の面ではこのチェコの田舎町の圧勝ですね。・・・と、言う訳で、世界一が大好きなアメリカの新聞記者が記事で紹介し、評価。審査の結果、ただちにギネスに記録されたそうです。
 東北大学の医学部解剖学教室のロビーには、こんな「書」が飾ってあります。6年間の中で最も厳しい解剖実習の中、東北大学医学部卒業生には大変印象深い言葉として脳裏に刻み込まれています。この田舎町の力作に、昔の書を思い出しました。
 一生をかけて、出来上がった世界一の作品・・・研究者もこうありたいものです。

東北大学加齢医学研究所 心臓病電子医学 山家智之

2013年6月21日金曜日


床医工学実習

  • 加齢研MEでは学生が担当分野の講義、実習指導を行っています。
itolecture.jpg
心エコーの講義
tsubokolucture.jpg
CAVI、脈波伝搬速度
myakuha.jpg
指尖脈波による血管弾性の推定
drivesimulator.jpg
自動車運転における脳血流計測の安全運転への応用(ドライブシミュレーター)
更新日時:2012/06/08 17:49:43
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2013年6月19日水曜日

世界で最初の人類に埋め込まれた遠心ポンプ



ちょっとしたトリビアですが、
世界で最初に、遠心ポンプ式の人工心臓が患者に埋め込まれた国はオーストラリアです。
その世界最初の遠心ポンプ型補助人工心臓 Ventra Assis tのインペラを設計されたマッコーリー大学のQian教授。

むちゃくちゃ贅沢な作りの実験室。
マウスやラット用の血行動態や脳波筋電図神経電図EPS心電図用のマルチチャンネルモニタが、一マウスに一台ずつ、10台くらい並んでる。
おいおいおいおい、動物用心カテ室が10台並んでいる感じだよ???

大学院生が、ひとり一台。動物用心カテ室を保持して実験している感じです。
フレックスタイムなので、大学院生さん、好きな時に来て、好きなだけ実験して帰っていくそうです
・・・ううん。贅沢。
写真写真写真

2013年6月16日日曜日

マッコーリー大学


シドニー郊外のマッコーリー大学の病院。
大学は公立なのに、病院は私立で、それぞれの科が独立でユニットといて経営されているそうです。そういうこともできるのか・・・
たくさんの医療メーカーがスポンサーとして入っています
オーストラリアは、経営の方針も開拓しているなあ・・・
病室は、ほとんどすべて個室。それぞれのベッドに、電子カルテ用の端末が付属の備品として最初から備えつけられています。全データが共有化されて、研究用途などにも端末で一瞬で関連付けられるそうです
写真写真

2013年6月11日火曜日

ストレス評価システム


 東北大学のデータから、震災などのストレスに晒された人体の多面的な反応が報告され始めており、虚血発作、脳卒中など心臓血管イベントの多発はもちろん、脳神経機能そのものが、ストレスによって萎縮するなど、現在考えられている以上に、マルチモーダルな反応を呈することがわかって来た。また各国からの物心両面の支援により良い方向性へのストレスのシフトも報告されるようになり、WHOの定義に基づく健康の議論。いわゆる、医学的、経済的、社会的にだけでなく、スピリテュアルにも健康であることが重要視されるに至っている。経済産業省は、新成長戦略で医療介護サービスを重要な柱として取り上げ、厚生労働省も、がん、糖尿病、脳卒中、心筋梗塞に「精神疾患」を加え、五大疾病に対する対応を進めることを決めている。高齢化社会を迎え、これからも定量的ストレス評価のニーズは大きなものと考えられる。
 しかしながら、この方向制の方法論は未だに大変少ないと言わざるを得ない。
 本研究では、心臓病上級医として、循環器系の立場から、ストレス計測技術としての妥当性を医学的見地から検討し、定量評価の蓋然性の検討を行う

 ストレスにより疾患の発生と、癒しのヒーリング効果と、両方向の側面が考えられる。この二つの方向性に関して、心臓血管系の診断と治療の方法論を生かして研究を進める。具体的には、医学系研究科倫理委員会の審査を経て、様々なストレス映像に関する生体反応調査を試みる。
 例えば、生理的嫌悪感を覚える映像刺激や、興味深い魅力的な映像などを対象に、視覚測定技術、循環系パラメータ測定技術などを介して生体反応計測を行い、同時に、ストレス計測技術の応用を試みて、非接触型測定装置などの開発も計画に入れる。計画後は企業化ベースで、様々な展開が試みられる予定である
 現在までの研究では、映像ストレス負荷を施行するにより、人体の体調により、血圧反射の回帰直線により定量診断できる自律神経の感受性などの差異が観測されており、人体のストレス感受性や体調、心血管イベントの予測などの成果が期待できることになるので、予防医療の観点からも期待が大きく、また映像刺激の生体反応評価も具現化することになる。

2013年6月8日土曜日

教授会資料にこんなの・・・



教授会の資料

全世界の大学のランキングには、いろいろな種類があって、あちこちで紹介されているオープンな評価なので、別に、秘密でも何でもないと思いますが、東北大はあるランキングの全地球規模の評価の上で見ると、137位ということらしいです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0
日本では、東大京大東工大に続いて第4位。
論文数、研究成果や引用回数、教授にどのくらい女性や外国人や身体障害者がいて国際化されているかなど、いろんな評価項目があるらしいけど、それって、重回帰直線の係数のパラメータ次第でいくらでも変わるんじゃないのかなあ・・・重要性の評価項目に、欧米キリスト教資本主義のエリート的未開国に俺様が教えてやるチック価値観が見え隠れしていて、個人的には、とっても嫌いなんですが。
安倍政権の政策目標で、全世界の大学ベスト100に、日本の大学を十個くらい送り込みたいという数値目標らしいんだけど・・・、大学って、そういうとこかしら?

自分の場合は、たまたま仙台生まれで、爺さんの代からこの大学出身でもあって、東北大学は、世界一良い大学だと思うし、私がここに勤めていなくても、地元民として出身校として大好きですが、別にランキングが良いからでもなんでもない。
と、言うか、
良い大学だから愛する。と、言うのは、愛校心として不純だとも思ったりもしたりします。
できれば良い大学であって欲しい。とは、思いますけど。

これって、なんか、愛国心に似ていませんか?

日本は世界一良い国だと思いますが、良い歴史も悪い歴史もあったんだと思います。
南京で30万人殺したってことは、まあないだろうとは思いますが、わざわざ人の国に攻めてったんだから、何も悪いことしていないとは、信じにくい。
従軍慰安婦を強制連行したというのは、吉田清治さんという名前の、嘘つきさんの作り話らしいけど(wiki)、慰安所があったことは悪いことでしょうし、当時の女性は辛かったんでしょう。
橋下談話は、言いすぎでしょうが、日本人だってパンパンガールの時代があったんだから、あの発言は、日本人の心情にはかなり近いものもあるでしょう。ああいうところはうまい。さすが大阪ヤンキーの星
アメリカでリベラル派が橋下発言を問題視しても、
そりゃあ「アメリカのくせに、お前だけは言うな!」という話でしょう。
ジャイアンだったら「ノビ太のくせに生意気な?」みたいな・・・
清濁併せ飲んでも、飲まなくても、やっぱり、日本は世界一良い国だと思います。

なぜ? 日本が良い国か?

治安が良い?
技術力がある?
国民が礼儀正しい?

全部正しいけど、全部間違っています。
そんなことを言い出すのは、愛国心として不純でしょう。

じゃあ、
反原発運動家が暴動を起こして、治安が悪くなったら日本が嫌いになるの?
技術でサムソンに負けたら嫌いになるの?
ネトウヨさんがフジテレビの前で、礼儀に反した反韓運動をしたら嫌いになるの?

おかしいでしょう。

学校とか、国とかも
そこにある。
ただ、それだけで、愛でるべきもののような気がします

資本主義の理論にすれば、最小の投資で、最大のリターンがあれば、最高の儲けでしょう。
じゃあ、最小の職員数で、最低の予算で、ネイチャーにたくさん乗れば最高評価?

効率化の観点からは、必ず、そうなりますよね。

と、
言うわけで、
いま、国立大学法人では、
予算削減を目指して、毎年、1%づつ人件費が削られています。

医学系には100人以上教授がいるので
「この参加メンバーが、毎年一人づつクビになるという意味です」
と、言うのは、
前の医学部長の、悲鳴みたいな説明でした

毎年一人づつクビにして人件費削減。
それで、だんだん論文数が増えていけば、人件費あたりの論文数が増える
それが、国立大学評価システムです

最終的には、人件費ゼロで、論文数無限大が、最終理想形ということになります

・・・え? そんなことはありえない?

何言ってるんですか!

マクド見なさい!ユニクロ見なさい!
店長以下、全部バイト
正社員数ゼロ・・・それで売上無限大!
最終目標はそうなるでしょう

今、行われている、この大学ランキング。
論文数を、職員数で割っているんですよ!
分母減らせば一番簡単じゃないですか

もっともっと働かせろ! どんどん職員減らせ
ぜんぶ非常勤にして、正規職員数なんてゼロにしてしまえ!


大学それでいいの?


違う!違う!何かが違う!これは違う!
・・・と、思いつつ、教授会の隅っこの席で、口下手で何も言えずに座っていた山家先生でした。


2013年4月25日木曜日

本日は広報委員会。
いい学生に入学していただくためのどう進めればいいのかディスカッションがあったりします

ホームページのデザインや、リンクのディスカッションもあり、確かに、公的なHPは、教授会マターだなあ・・・公的にオーソライズすれば、きちんと審議して時間がかかるし、キャッチアップを早くすれば、ミスも増える。

そういえば、昔、大ドジこいたことがありました。
HPなんて誰も知らない時代に、作っちゃったんですよね・・・


研究所の最初のHPは、「山家」のHP????・・・・90年代ネクスト


今みたいにエクセルでスカッと計算できたり
画像がスパスパ出来るはずもなく
グラフ一つ作るのにも、昔はたいへんでした
私の博士論文なんて、手書きの図も入っています

そんなある日、あまりの非効率に業を煮やして、お金のない、わが研究室にもミニコン(パソコンじゃないっすよ)が導入され、
やっと、方眼紙の手書きの図から解放されました。
科研費あたったんですか? さすが?
と、思っていたら、さにあらず、
昔々は、研究所では、年度末には必ず補正予算がつくので、年度ごとに順番で、三月ころ突然、「1週間で、お金使え?」なんてことがあったそうです。
酷い話です。

いまでは、もちろんこんなことはありません
経理さんに絞め殺されます。

まあ、昔は、こんなシステムだから、預け金その他の問題が発生して、いま、大学と業者さんが訴えられたりしていますね。
今でもこんなことをやっていては、当たり前でしょう。

それで、大型予算が来るらしいから、何とかしろ!
と、教授は助教授に丸投げ、
助教授は医局長に丸投げ、
んで、
実際の使い道を考えるのは、僕ら大学院生だったりするわけです

「まあ、少しデータをコンピュータ化しよう(言葉が古いっす)」
と、いうわけで、
工学の先生方たちと相談して導入されたのが
NeXT!
アップルを、おん出されたスティーブンジョブスが、作った会社のワークスステーションでした。

いや、当時としては、なかなかで、デザインもカッコよかったものでした
工学部の先生方も、人工心臓制御用システム同定に喜んで使っていたり、私も隙を見て、しこしこベーシックで変なプログラム書いたり、フラクタルの絵を描いたりしていました。

そんなある日、工学部の学生さんが
「山家先生! せっかくNeXTなんだからホームページ作ってみませんか?」
(NeXTは、システム開発の、そもそもから、ネットワーク仕様だった。これはハードディスクの技術が無く、キャノンなどから導入していたための苦肉の策と言われる『wiki』)
「へ? なんじゃそりゃ」
「いや、だから抗研ME(うちのこと)を宣伝するんですよ?」
「どこに?」
「インターネットに」
「え。パソコン通信?」
・・・当時はそう言う時代でした。

「面白そうだから、作ってみて」
「ホームページの名前どうしましょ」
「うん、僕のなら、山家のホームページ?」
「東北大にリンクしときますよ」
「ううん、東北大卒業したし、今度、助手になったから、いいんじゃない?」

などと、軽い気持ちで作っていたHPでしたが
そう言う時代なので、誰もそんなことを考える人がいません

ある日、工学部の教授の先生から
「先生、見ましたよ!先生のホームページ」
「え?」

どうやら、研究所で他にホームページを作る人がいなかったので
研究所の代表が、いつの間にかうちになっているらしく
それも「山家」のホームページになってる!!

???・・・さすがにこれはまずい!

そこで、あわてて
「心臓の悪い人の診療案内」と、いうことで、うちの関連病院の情報を紹介して、
「仙台厚生病院(当時は抗酸菌病研究所の附属病院でした)の循環器で火曜日に外来を見ておりますので、心臓の調子の悪い方はいつでもおいで下さい」
と、書き直し、研究所全体のHPも立ち上げていただきました(そりゃまあ大変)

厚生病院にも新しく部長の先生が来られて、救急を立ち上げるので患者集めに尽力しています
「先生、患者さん集めに、インターネットで案内だしては如何でしょう?」
「へ? なんだそれは」
(しつこいですが、そう言う時代でした)
「だからパソコン通信とかやっている方に宣伝するんですよ」
「ううん、そんな患者は神経質なうるさいのが多いだろ」
「まあ、コンピュータが好きな方でしょうからねえ」
「そんなの、いらん」
一言の元に却下されてしまいました

私も大学病院で外来を持つようになり、厚生病院からだんだん足遠のいていたある日
突然、厚生病院の院長先生から電話
「こんど、うちでも、病院のホームページを立ち上げようと思うんだけど・・・」
「だから、僕、初めからそう言ったじゃないですか」
「ううん、それはそうなんだが、時代が変わったから・・・」
「でしょ〜 宣伝に良いんじゃないっすか? がんばってください」
「それでだね」
「はい」
「仙台厚生病院、って検索入れると、どうも、山家君の名前しか出ないらしいんだよ」
「・・・」

しまった。更新忘れてた。

ぶん投げておいたので
結局、「抗酸菌病研究所」でも、「仙台厚生病院」でも、
前に作ってしまった「山家」のホームページに行くようになってしまっていたのでした

「すんません。すぐ削除します」
いやあ、ネットは恐ろしいなあ

2013年4月23日火曜日


医学研究におけるモデルの役割

1. 研究開発におけるプロトコール
 大学においても研究所においても動物実験を施行することは益々困難になりつつあり、「動物実験を行うくらいなら、人間の臨床試験の方がよほど簡単だ!」などと言う冗談まで囁かれる程である。
 勿論、動物実験は患者さんに応用する前に行われるものであり、治療効果を判定することは勿論、それ以前に、薬剤・医療機器の安全性・有効性などをチェックするために不可欠なものである。
 例えば薬剤などの開発研究・臨床試験では、まず、薬剤として応用できそうな候補物質の選定から始まる。カビを眺めながらペニシリンが発見されたりするような画期的でエポックメイキングな発見がなされることは流石に少なくなってきているが、それでも一部地域の土壌から発見された微生物の代謝産物から新しい抗菌薬や、免疫製剤が発見されることは少なくない。日本の薬剤メーカは一般に独創性に欠け、新たに開発される薬剤は少なく、欧米からの輸入が多いなどと囁かれて来たが、例えば高脂血症の治療薬などは日本で世界に先駆けて開発され、日本の開発力も見直されてきている。(1-6)
基礎研究として、これら多くの候補物質の物理的・化学的な性質が調べられた後、薬剤としての有効性を持つ可能性がある候補物質が定まれば、動物実験が開始され、安全性や有効性が検討されることになる。
2.動物実験モデルの持つ問題
この際、重要なポイントになるのは、候補物質の作用を確かめるために作成される疾患の動物実験モデルである。例えば抗生物質であれば、感染症のモデルがin vivo, in vitroで必要になる。培養で菌の増殖が抑えられればある程度抗生物質としての作用は証明できるが、生体に投与した場合の安全性はまた全く別の問題である。更に生体に投与した場合、感染症を起こしている組織への移行も問われることは自明である。従ってこの二つの問題だけでも動物実験モデルの存在は不可避になる。
しかしながら、動物も草食・肉食・雑食と種類によって解剖学的に構造そのものが異なるだけでなく、全く代謝系も異なり、人体のモデルとしては必ずしも的確でないことも多い。例えば日本で開発されたある高脂血症の薬剤は、動物実験では当初全く効果が認められず、開発が断念されかけたこともあった。しかしながら、その後、実験動物を変更したところ、著明な薬効が確認され、最終的に臨床試験でも従来にない画期的な薬剤であることが確認され、市場を席巻するに至った。
筆者らも販売された当初の循環器科の現場で日本からこれほど画期的な薬剤が開発されたことに驚愕した歴史を記憶している。それまではコレステロールの薬と言えば、何種類飲ませても、下がるんだか下がらないんだか・・といった状況が、「こんなに下がって大丈夫か?」という状況へ一変したのである。実際この危惧も必ずしも根拠がないわけではないことも後に述べる。
更に重要なことは、作成した動物実験モデルが、人間の病気の精密なシミュレーションになっているかどうかである。例えば心筋梗塞モデルを考えてみれば、病気の原因は、冠動脈の動脈硬化性病変が進行して血管が閉塞してしまうことであると報告されている。そこで、動物実験では動物の心臓を露出して冠動脈を結搾したりして、心筋梗塞のモデルや虚血性心不全のモデルを作成する(7,8)。
しかしながら、健康な動物の冠動脈を急速に縛り付けたモデルは、当然のことながら実際の人間の心筋梗塞とは異なる。
何回か狭心症発作の前兆を自覚していながら、忙しさにかまけているうちに、不安定狭心症の段階から、本格的な心筋梗塞へ至って救急車で来院する患者さんも多い。この場合、もう少し早く来てくれれば・・・という、思いはあるが、最近の研究ではこのような前兆が合った場合、心臓は、ある程度、虚血に晒されて、ある意味で準備段階から慣れてきているので、側副血行路が発達する十分な時間があることもあり、比較的予後が良いという報告も行われている。逆に、最初の発作が心筋梗塞でいきなり発症した場合は、壊死する範囲が大きく被害が大きいと報告されている。
心臓病を専門にする立場から言えば、全ての患者さんは全員が異なった病態を持っているのが当たり前である。PTCA(冠動脈形成術)のようなインターベンション手術を専門医する医師は、患者さんの顔を見ても全く何も思い出せないが、冠動脈造影を見たとたんに、既往歴から経過から手術の細かいプロトコールまで全て思い出す等と言うことはよく言われることである。これは、それぞれの患者さんが、似ているようでいながら全く異なる冠動脈像や病変を保持しているからでもある。
このように心筋梗塞一つとっても様々な病態があり、どうしても動物実験だけでは全ての患者さんのモデリングはなかなかに困難である。コレステロールが高くて器質的狭窄があり、何回かスパズムを起こし・・・などと言う動物実験モデルは製作が難しいことは勿論である。コレステロール値などに異常があれば、血液の粘性も異なり、そのモデリングも難しい。
従って、動物実験モデルは、複雑な病態のごく一部を抽出して作成したもので、当然ながら人間の病気とは全く異なっている部分も多い。
3.  臨床試験なら大丈夫なのか?
動物実験で効果と安全性が確認されれば臨床試験へ移行することになる.
例えば薬剤の開発において臨床試験は三相に分かれ、フェーズ1では、健康な成人志願者や特定のタイプの患者さんを対象に、安全性を確認する。フェーズ2では少数の患者さんを対象に、有効で安全な投薬量、投与方法、期間などを調べる。欧米で開発された薬剤が体格の小さな日本人にそのまま有効であるかどうかはここでの検討が重要であり、欧米で画期的といわれた薬剤が日本では全く効果が確認されない場合、フェーズ1での安全性を重視する余り、十分な有効血中濃度に達しない分量で認可されてしまった場合がある (1-6)。
最近流行のevident based medicine (EBM)のメガスタディでは数千数万を対象として10年単位のフォローアップ調査を行うが、欧米のメガスタディの成績が日本では当てはまらない場合、分量の問題がよく問われることになる。これはこのフェーズ2で適切でない分量が設定されてしまった場合に頻発する。しかも、この問題は市販された後に10年単位で初めて明らかにされる事実であるだけになかなか厄介でもある。
フェーズ3では、より多くの患者さんを対象に、候補薬剤と既存の薬剤またはプラセボと比べて、有効性や安全性に関する最終確認を行う。特に問題になるのはこの「従来の薬剤と比べて・・・」であり、統計的に効果が差がなかった場合に認可が下りないという問題である。代謝経路における作用部位が同じであったり、作用機序が似た薬剤であった場合、従来の薬剤とは効果に統計的有意差が出ないことも良く起こり得ることは勿論であり、ことここに至って十年単位の開発が、認可が下りずに全く無駄に終わる可能性も高い。そこで、今度は先ほどと逆に、薬剤の効果を強力に出すべく、より血中濃度を上げるために含有される分量の多い製剤を開発する場合もある。その場合、従来の薬剤より効果は出ても、先ほどとは逆に今度は長期フォローアップのメガスタディで作用が強すぎる等の問題が出てくる場合もある。
日本で開発された高脂血症の薬剤は、その強力な効果で全国の医療現場に驚愕を持って迎えられたが、コレステロールは確かに強力に下げ、更にその作用によって心血管イベント(心筋梗塞などの心臓血管系の動脈硬化によって発生する病態)も有意に減少させたが、最近のメガスタディでは、それが必ずしも死亡率の減少には結びつかないなどの報告も散見されるようになってきている。
すなわち患者さんのコレステロールを余り下げすぎれば、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患は確かに減少させても、それが、他の疾患の発生に結びつく可能性も指摘され始めているわけである。順番こそ多少前後しても、欧米でも日本でも、主たる死亡原因の大きな部分を占めるのは心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患と並んで悪性腫瘍が重要である(9-12)。ここから、あるいはコレステロールの低下療法と悪性腫瘍の関連性の可能性が指摘され始める根拠ともなっているが、細かい経路にはまだ諸説もあり異論も多く、定説には至ってはいない。
ここで強調しなければならないことは、臨床試験で効果が確かに確認された場合でも、本当の判断は市販後の長期フォローアップやメガスタディを待つ必要があることである。
すなわち、基礎研究から、in vivo, in vitro, 動物実験だけでなく、臨床試験におけるフェーズ1x3の精密な検討も、ある意味では疾患モデルの研究に過ぎないとも言える。本当の対象は、疾患を持つ全患者であり、ここに至るまでの検討は、すべてある種のモデルを想定した研究に過ぎないと考えることも出来るわけである。
治療薬剤の開発を対象に、基礎から動物、臨床試験に渡るまでのモデルの役割について検討してみたが、対象を医療機器に移してモデルの役割に着いて振り返ってみたい。
4.      医用工学研究におけるモデリング
動物実験が困難になりつつある現在、現実に疾病のモデルを作成する方法論は益々重要になりつつある。モデリングには循環系を模擬した電気回路モデルや、数式のシミュレーションなど種々のものが報告されている。
最近、東北大学では流体力学の数学的計算からカルマン渦の流線を計算し、現実の流れの可視化のデータと比較完投して良好な一致を得ているが、正確なシミュレーションを具現化するために、実際の計測データをフィードバックする方法論の開発を試みている。現実のデータを一点でもフィードバックできれば、シミュレーションの正確性が飛躍的に向上することは勿論である。
例として動脈圧反射の数理電気回路モデルから動物実験モデルにおけるシミュレーションを例示し、その結果の臨床データへのフィードバックを試みているので概述する。
5.      血圧反射の数理モデル
 左心循環系の電気回路モデルには単純なものではウインドケッセルモデルが用いられることが多い。抵抗とコンプライアンスからシンプルな左心循環を具現化するモデリングの方法論である。
 これに、フィードバック回路としての血圧反射モデルを負荷して図示する。

この数理モデリングは、Cavalcantiらの96年の報告を元に(13)、東北大で改良されたモデルである。このモデルにおいて血行動態の時系列間における相互作用にシグモイドカーブを模した非線形性を導入したのが特徴になっている(14)。
 この電気回路モデルによるシミュレーションでは興味深い現象も観察されている。
 例えばこのフィードバック回路の血圧反射における遅れ時間を短く設定すれば、心拍変動や血圧などの血行動態の時系列データは一定値に収束する定置制御型の時系列曲線を示す。血圧反射はホメオスタシスを示す代表的な制御機構であり、この範囲ではこの現象が具現化している。
 ところが、この遅れ時間を長くしていくと興味深い現象が観察される。
 時間遅れを長くしていくと、まず時系列曲線の発振が始まる。フィードバックのコンセプトを考えてみれば、血圧が上がれば、反射により心拍数が下がり、心拍出量が下がるので結果として血圧が下がる。これを繰り返せば、当然のことながら、フィードバックの繰り返しはサインカーブのような発振を繰り返すことになる。
 ところがこの時間遅れを長くしていくと、この発振は二つの周期を持つ時系列曲線となりやや複雑な時系列が得られる結果となる。更に遅れ時間を増加させていくと、結果としては決定的カオスの存在を示唆する複雑な時系列が得られる結果となる (図4)。
 これは、電気回路モデルを元にした数理科学シミュレーションから得られた結果である。この結果は先ほどの薬剤開発プロトコールに準じて考察すれば、次に動物実験でこの結果を確認する必要があることになる。
6. 人工心臓動物実験モデル
 原理を正確にシミュレートすることは、残念ながら動物実験で容易であるはずはない。原理が精密に決まっていればいるほど、それを再現することは困難に陥る。
 例えばここでシミュレートした血圧反射を、動物実験で再現しようとすれば、心拍数を変えるだけでは純粋に現象を抽出できない。ペースメーカを用いて心拍数を変えても、動物の心臓は液性因子の影響から独立ではありえないし、そもそもペーシングによる収縮自体が自然なものではない不自然さが残存している。ペーシングリードの位置により、収縮のダイナミクスの形態が異なってしまうのである。 
 理想的に原理を抽出できうる人工循環の臓器としては人工心臓が存在する。
 そこで、人工心臓を用いた動物実験で、血圧反射をシミュレートすると言う方法論が考えられると言うことになる。
 図に示すように、両心バイパス型の人工心臓で実験を行えば、心臓のダイナミクスは生体から完全に独立させることが可能になるので、理想的なシミュレーションが具現化する。
 その結果、電気回路シミュレーションの結果と同様に、血圧反射が時系列にカオス的ダイナミクスをもたらすことが観察された。
 このように、様々なモデリングの結果から、血圧反射フィードバックが生体のカオス的ダイナミクスに大きな役割を果たしていることが確認された。
7. 臨床データへの応用
 血圧反射系が最も傷害された病態生理を考察してみれば、その病態は血圧制御の破綻と言うことになる。すなわち、血圧反射系の破綻は、結果として「高血圧」の病態を形成することになる。破綻した血圧反射系では、血圧が上昇しても、心拍数が減少するシステムが働かず、心拍出量が低下しないので、結果として血圧は高い値に放置され、高血圧になることになる。
 血圧反射は循環動態を制御する最も重要なパラメータの一つである。従って血圧反射系が破綻すれば制御パラメータが一つ減ることになるので、循環動態の時系列の持つ情報量は結果として減少する。時系列の保持する情報量が情報量エントロピーで定量化できるものと仮定すれば、血圧制御系が破綻した循環動態では、時系列の持つ情報量エントロピーは減少していることになるはずである。
 カオス的な非線形ダイナミクスはフラクタル次元で定量化されるが、フラクタル次元の様々な計算法があり、情報量エントロピーから計算する方法論は情報量次元と呼ばれるが本質的には、どの方法論で計算しても数学的にはフラクタル次元は一致する。すなわち、非線形ダイナミクスの情報量の定量化にはフラクタル次元解析も有効な方法論の一つである。
 図にボックスカウンティング法を用いて計算した健常者のホルター心電図における心拍変動フラクタル次元解析の日内変動を提示する。
 日中の活動では様々な外乱が加わって変動が複雑化する影響もあり、一般に日中のほうがフラクタル次元が高い傾向が観察される。
これに対してある種の高血圧患者においては、その心拍変動のフラクタル次元が有意に低下している例もある。
この現象、血圧反射系のような心拍変動を規定する制御系が破綻し、心拍変動の時系列の保持する情報量エントロピーが低下傾向にあるための結果であると考察することができる。
この症例に対して、ある種の血圧制御系を改善する作用があると報告される薬剤を投与すると、血圧の改善とともに、ホルター心電図解析結果の心拍変動のフラクタル次元が回復する傾向が観察された。これは血圧制御系が回復することにより、情報量が複雑化する方向へ傾き、フラクタル次元の日内変動が回復した結果と考えれば矛盾なく解釈できる。
すなわち、電気回路モデルでは、血圧反射フィードバックの付加により、時系列にカオス的ダイナミクスが発生した。人工心臓動物実験モデルでは、血圧反射を模した人工心臓制御によりカオス的なゆらぎの発生が観察された。そして心拍変動では血圧反射系が障害されていると臨床的に判断された高血圧患者に薬剤加療を行ったところ、カオス的なダイナミクスが改善しフラクタル次元が増加傾向にあるのが観察された。
ある意味で数理モデル及び動物実験モデルによって臨床データがシミュレートできたことものと解釈できるものと考えられた。
モデリングという方法論にはもちろん限界もある。
本質的にトータルシステムの本質と思われる部分を抽出して作成した以上、モデルはあくまでもシミュレーションに過ぎず、現実の人間の病態の複雑性とは比較にならない単純なシステムに過ぎないという批判は否定しきれない。
数理モデルの単純性は議論の余地がない。動物実験モデルは動物が本質的に人間とは異なる代謝系を保持している以上、ごく一部のモデルにしかなり得ない。では、臨床データが正解かといえば、どんな膨大な臨床データも、全患者の標本の抽出に過ぎないので、必ずしも本質を突いていると保障しかねる側面は否定しきれない。例えば一部の抗不整脈の薬剤は、ある種の患者の不整脈は抑えるが、結果として投与患者の統計から、死亡率を上昇させることが判明して問題になった場合もある。これは一部の患者の症状を抑えるというサンプリングと治療目標のモデルの立て方が間違っていたとも解釈しえる。
 数理モデル、動物モデル、臨床モデルなどを駆使して、薬剤の開発や医工学機器を対象にモデリングについて解説した。限界をよく見極めつつ応用すれば、モデリングという方向性もまた医工学技術の発展に益するところも大きい有効な研究の方法論のひとつである。
文責:山家智之(東北大学加齢医学研究所)

References

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special thanls to
Ms. Yoko Ito and Mrs. Hisako Iijima

―21世紀COE産学協同医工学研究により加齢医学の国際共同研究体制確立へ

加齢医学研究所、スモレンスクステートメディカルアカデミーと
学術協定を締結

 


 保健医療の統計において、大変興味深い現象が進行している地域があります。
 ロシアでは、90年代初頭から平均寿命が年々減少していますが、これは戦争がない時期の欧米においては歴史上例がない極めて興味深い現象です。様々な原因が考えられますが、総人口における約55%が心血管イベントで死亡すると言う統計は重要です。また経済上の問題により高額な医療費が要求される薬物療法が制限されている要因も大きいものと考えられます。
 図にロシアにおける千人あたりの死亡率と出生率を提示します。死亡率が出生率を上回り、人口が減少に転じています。

図1 ロシアにおける出生率死亡率の年次変化

 さて、翻って本邦においても食生活の欧米化に伴い、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患が増加傾向にあります。これらの心血管イベントの発生は、生命予後を制限するだけでなく、高齢者のQOLを大きく妨げています。更に重要なのは経済的な問題です。国民経済における縮小傾向は、高齢化社会の到来に伴って近い将来に予測される人口の減少が重要なファクターとなって行く事は容易に予見できます。
 この三月に施行された国民医療費の三割負担が、病院医院の外来診療に大きな影響を与えたことは、医療現場の前線で外来に携わる医師の実感です。今回は三割負担でしたが、保健医療が財政を圧迫しつつければ四割五割と進んでいく可能性も否定しきれないものと考えられます。
 すなわち、近い将来に、人類史上例がないスピードで人口構成の高齢化が進み、かつ、医療経済の限界が目の前に迫っているというのがわが国の現実です。経済の破綻が医療現場を直撃することは、ロシアの現実が証明しています。
 地域によっては、「薬が高いので・・・」という患者からの声が、既に外来の担当医を困惑させ始めています。確かに長期予後に効果のあることがメガスタディにより示唆されている新薬でも、患者さんが経済的に購入できなければどうしようもありません。このような経済問題は、既に現在ロシアで進行している現象でありますし、今後日本で到来することが予測される現実とも言えるかもしれません。
 両国における動脈硬化などに関する保健医療の研究はある意味で愁眉の急とも言えるでしょう。経済学的により生命予後に優れた薬剤インターベンションへ向かわなければ国家経済がそれを負担しきれないことは、今年度の保健医療の改正でも明らかです。より安価な薬剤でより大きな統計学的な効果が望まれていくのは自明でしょう。そのためには、動脈硬化の長期予後に関する多国間の統計学的研究は不可欠になって行きます。何より、既に現場の患者の声がそれを証明しています。
 そこで、日露協同で動脈硬化研究へ着手しようという発想に至りました。
 スモレンスクは、モスクワの西約300kmの中堅都市であり、スモレンスクステートメディカルアカデミーはロシアの西側領域における唯一の医師養成期間、医学研究機関です。ちょうど帝国大学時代の東北帝国大学医科大学のような存在に当たるとも言えるかもしれません。古くはロシアの前身であるモスクワ大公国と覇を競ったスモレンスク大公国の首都で、東欧における覇権争いで最終的にはロシアに編入された歴史を持ちます。
 スモレンスクもある意味でロシアの現況を典型的に体現する地域で、総死亡に於ける心血管イベントの占める割合は59%を超え、そのほとんどが虚血性心疾患です。経済学的な限界と高齢化社会を迎える日本にとって極めて興味深い保険医療分野におけるフィールドと言えるかもしれません。
 そこで、加齢医学研究所と、スモレンスクステートメディカルアカデミーは、加齢医学研究における国際共同研究体制を確立するべく、学術協定を締結する運びとなりました。
図2 スモレンスクステートメディカルアカデミーのビクターAミラーゲン副総長と、
加齢医学研究所の帯刀益夫所長

 2003718日、加齢医学研究所大会議室において、学術協定の調印式が挙行されました。
 スモレンスクステートメディカルアカデミーからは、副学長の、ビクターAミラーゲン教授と、同じく研究担当副学長のニコライAファラシューク教授が来日され、加齢医学研究所の帯刀益夫所長とともに調印式が行われました。
 調印式の事務手続きに当たって奔走していただいた本郷事務長、丸本庶務掛長に深謝いたします。


図3 学術協定のサインを行うビクターAミラーゲン副総長と、帯刀益夫所長、
調印式を撮影する丸本庶務掛長。

 調印式の後、加齢研シンポジウム並びに21世紀COEバイオナノテクノロジー基盤未来医工学のバックアップを得て、日露協同国際医工学シンポジウムが開催され、活発なディスカッションが行われました。
 更に翌19日には、仙台市内の第1線の病院医師、開業医などを集めて第1回東北脈波情報研究会が開催され、本邦における最新データとともにロシアの動脈硬化の現状について講演が行われました。
 加齢医学研究所とスモレンスクステートメディカルアカデミーは、特にロシアでは主たる死亡要因であり、日本でも最近増加が著しい動脈硬化性疾患にフォーカスを置いて、既に共同研究のプレリミナリースタディを開始しています。
 動脈硬化においては様々なパラメータが応用されていますが、最近開発された脈波伝播速度の簡易測定装置は、血圧測定用のマンシェットを巻くだけで極めて簡便な定量的な測定が具体化するので、急速に開業医から病院までの実地医家に普及し始めています。若干のコミュニケーションギャップが不可避になる国際共同研究においては再現性のある簡便の方法論がデータ収集に不可欠になります。そこで、小規模なプレリミナリースタディから研究を開始いたしました。
 その結果、両国における加齢に伴う動脈硬化進展の様式が有意に異なることがわかり、加齢医学における興味深いデータが次々に得られるようになりました。


図4 脈波伝播速度の加齢変化の日露比較、ロシア人のほうが動脈硬化の進展が早い。

 図に提示するように、日本でもロシアでも、加齢に伴って脈波伝播速度は増加傾向にあります。年齢層別に比較すると、早くも四十代前後には、ロシア人では日本人よりも有意に脈波伝播速度が大きい傾向を提示するようになり、五十代にはこの傾向がますます拡大しています。
 すなわち、ロシア人は、日本人に比較して明らかに動脈硬化の進展が早いことが示唆されています。
 また、症例数が十分ではないので、数学的解析の段階と言うには限界はありますが、仮に直線回帰を行うと更に興味深い現象も示唆されます。
 すなわち、日本人でもロシア人でも直線回帰を行うと、ゼロ軸切片がほぼ一致します。これはすなわち、出生時においては日本人でもロシア人でも、ほぼ脈波伝播速度が一致すると言う事実を示唆する所見です。これは、誕生したときには日本人もロシア人も差がないのに、成長につれて両民族の差が開いていく現象を提示していることになります。
 両国における加齢医学を追求するのに興味深い基礎データといえるでしょう。
 どこで話を聞いたのか、ロシアのテレビ局、TVCが、この日露協同の脈波伝播速度を用いた動脈硬化研究のプロジェクトの取材に参りました。
 TVCのキャスターさんが、日本で開発された独自の脈波伝播速度計測装置で、動脈硬化の進展について自ら被験者になって取材していかれました。
 このキャスターさんは、ロシア人にしては意外と動脈硬化は進んではいなかったようですが、日本人に比べてロシア人の動脈硬化の進展が早いと言う我々の研究結果は、ロシアの視聴者にとってはたいへんショッキングであるとコメントして行かれました。



図6 ロシアのテレビ局、TVCによる日露国際共同研究の取材、
脈波伝播速度を計測されているのはキャスターのネカニエフAアレクシービッチ氏

 このように脈波伝播速度によって計測される動脈硬化の変化においてもたいへん興味深い現象が観察されています。
 この研究は民間との共同による産学共同研究によるもので、昨年採択された東北大学の21世紀COE:バイオナノテクノロジー基盤未来医工学では、医学工学協同によるこのような産学協同や、国際共同研究を積極的に推進しています。
 現在、更にこのような新しい方法論から新しい診断法の開発へ結びつけるべく研究が進められており、加齢医学研究所には新しく産学協同研究のための寄付部門が設置されました。
 今後更に幅広い分野で、国際学術協定を生かす形で更に積極的に共同研究を推進し、両国における加齢医学の発展に大きく貢献していきたいと考えています。

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